勤務医の額面年収は、世間的に見て決して低くない。それなのに手元に残る金額は思ったより少ない。そう感じたことが一度はあるだろう。
これは累進課税制度の影響による。別の記事(年収別 手取り早見)で詳しく見たとおり、年収が上がるほど手取りの比率は下がる。額面が倍になっても、手取りは倍にならない。
手取りを増やす道は、ひとつではない。節税・バイト・働き方の組み直し・転職。それぞれの効果を数字で並べると、こうなる。
- 節税(ふるさと納税・iDeCo等)は、年数万〜数十万円で頭打ちになる
- バイトを増やせば収入は増えるが、時間の切り売りになり、また増えた分には高めの限界税率がかかり、手取りの増え方は緩やかだ
- 非常勤の比率を上げれば、時間単価は上がる可能性がある
- 常勤先の年収を上げれば、労働時間を増やさずに、最も大きく数字が動き得る
この比較で最後の選択肢が残るなら、その現実的な手段が転職だ。
とはいえ、転職と聞いた瞬間に身構えてしまう感覚はよくわかる。今の職場を離れる不安、医局との関係、辞めるにあたっての面倒事。こうした感覚を抱くのは当然だろう。
だが、この記事で最も伝えたいのはここだ。「転職」と「転職活動」は、まったく別物である。転職には確かにリスクがあるが、転職活動のリスクはごく小さい。だからまず、その小さな一歩から始めればいい。その考え方を順を追って説明する。
なぜ、勤務医の手取りは「常勤先の年収」で決まるのか
最初に、なぜ常勤先の年収が手取りを最も大きく動かすのかを整理しておく。
勤務医の手取りが伸びにくいのには、構造的な理由がある。最も大きいのは、所得税の累進課税制度の影響だ。所得が上がるほど、増えた分にかかる税率が段階的に高くなる。さらに給与所得控除は、ある年収を超えると195万円で頭打ちになり、それ以上は年収が上がっても増えない。
控除が伸びないまま税率だけが上がる。だから高所得層では、増やした額面の半分近くが税と社会保険に消える状態が生まれる。平均で何割引かれるかではなく、これから増やす1円が何割持っていかれるか。この負担割合が高いことを、限界税率が高いと言う(詳しくはバイト代と確定申告の記事で解説している)。
この構造を踏まえると、手段ごとに効果の大きさがはっきり分かれる。節税は、経費を自由に計上できない給与所得の勤務医にとって誤差の範囲にとどまる。バイトの追加は、増えた分に高い限界税率がかかるし、自分の時間をお金に変えているため消耗戦になりがちだ。
最も大きく動くのは、常勤先の年収そのものを上げることだ。これは同じ労働時間のまま収入を増やすことに等しい。働く時間を増やさずに年収が上がるため、時間あたりの単価が改善する。自分の時間と健康を削って給与を得るのか、ベースを上げて時間や健康を犠牲にせずに給与を上げるのか。長い目で見て続けられるのは、明らかに後者だ。
そして、常勤先の年収を上げる現実的な方法が転職である。今の職場で大幅な昇給を勝ち取るのは、多くの医療機関の給与体系では簡単ではない。年収の相場は、勤務先や地域、診療科、経験年数によって大きく異なる。自分が今いる場所が相場より低いのであれば、それを是正する余地がある。周囲との軋轢も考えると交渉したところで大幅な給与アップは見込みにくい。自分の相場を確かめる手段が転職活動だ。
「転職」と「転職活動」は、まったく別物だ
ここが、この記事の核心である。
「転職」という言葉には確かにリスクがつきまとう。医局に属しているなら、引き止めや人間関係の問題は避けて通れない。辞め方やタイミング次第で、次の勤務先にまで影響が及ぶこともある。新しい職場が本当に自分に合うかどうかも、実際に移ってみるまではわからない。これらは事実であり、軽く扱うべきではない。転職そのものには相応の覚悟と準備が要る。
だが、大事なのはここだ。転職活動は、ほぼノーリスクだ。時間的なコストや個人情報の提供、営業連絡の煩わしさはあるが、転職によって年収や環境が変わることに比べれば、取るに足らない。
求人情報を見ること、自分の市場価値を知ること、転職エージェントに登録して相場の話を聞くこと。これらが今の職場に影響することは、まずない。辞める決断とは完全に切り離せる。情報を得たうえで「やっぱり今の職場に残ろう」と判断するのもよいだろう。転職活動をしたからといって、転職しなければならない義務などどこにもない。
むしろ、転職活動でわかることには大きな価値がある。自分の市場価値、年収の相場、世の中にある選択肢。これらを知ること自体が、今の職場で待遇を考えるうえでの判断材料になる。相場を知ったうえで「今の条件は悪くない」と納得して残るのと、相場を知らないまま何となく残り続けるのとでは、同じ「残る」でも意味がまったく違う。漫然と残るのではなく、自分で選択したという事実は心のなかでの納得感が段違いだ。
リスクのある「転職」を今すぐ決断する必要はない。リスクの小さい「転職活動」から始めればいい。情報を得て、自分の立ち位置を知る。動くかどうかは、そのあとでゆっくり決めればいい。この順番を取り違えないことが何より大切だ。
Dr.マコトの見方
この2つを一緒に扱ってしまうと、判断が重くなりすぎる。決断の重さが、情報収集の入口まで塞いでしまうからだ。私は「知る」と「決める」を切り離して考えるほうが、結果として冷静に選べると考えている。知ったうえで残るのも、立派な結論だ。
立場によって、始めるタイミングは変わる
転職活動への一歩といっても、置かれた立場によって考え方は変わる。ここは明確に線を引いておく。
初期研修医は、今は手取りの最適化や転職を考える時期ではない。目の前の研鑽が最優先だ。ただし、3年目にどの診療科・どの医局・どの病院へ進むかという選択が、その後の年収のベースを大きく左右する。今すぐ動く話ではないが、相場の感覚を持っておくこと自体には意味がある。
専攻医は、まず専門医の取得が最優先である。プログラムを全うすることに大きな意味があり、年収だけを理由に動く時期ではない。ただ、自分の年収の水準と相場の感覚を今から持っておくと、専門医を取ったあとの選択や交渉で必ず効いてくる。動くのはそのあとでよく、今は情報だけ持っておけば十分だ。
中堅・ベテランは、転職活動に最も適しているタイミングだろう。経験や専門性に対して、今の年収が見合っているか。もし相場とずれているなら、それを知ること自体が次の一歩につながる。動くことを具体的に考えられる立場であり、転職活動を始める価値は十分にある。
強調しておきたいのは、「いつ動くか」と「いつ情報を得るか」は別の話だということだ。実際に転職するかどうかはともかく、情報収集はいつ始めても構わない。むしろ早く始めるほど相場観が育ち、いざというときの判断が速くなる。
Dr.マコトの見方
相場観は、必要になった瞬間には間に合わない。急に必要になるのは、たいてい選べる時間が残っていないときだ。だから私は、動く予定がない時期こそ情報を持っておく価値が高いと考えている。持っていれば、動かない判断にも根拠が付く。
医師の転職活動は、何から始めればいいか
では具体的に何から始めればいいのか。結論から言えば、医師専門の転職エージェントに登録して、まず情報を得るところからだ。
転職エージェントの役割は求人の紹介だけではない。年収や勤務条件の交渉を代行してくれること、自分では見つけにくい非公開の求人を持っていること、そして何より業界全体の相場感を教えてくれることに価値がある。自分一人で求人サイトを眺めるのと、相場を知る相手に話を聞くのとでは、得られる情報の質がまったく違う。
一般的な転職サイトではなく、医師専門のサービスを使う意味にも触れておく。医師の転職は、給与体系も勤務形態も一般の職種とは大きく異なる。当直や非常勤を含めた働き方、診療科ごとの相場、医局との関係といった医師特有の事情を理解しているサービスでなければ、的確な情報は得られない。医師専門のエージェントは、こうした事情を前提に話を進められるという点で、最初の一歩には適している。
数あるサービスのなかで、まず登録先として挙げられるのが医師転職ドットコムだ。株式会社メディウェルが運営する業界最大級の医師向け転職サービスで、会員登録は無料である。求人の紹介から条件交渉まで一通りをカバーしており、最初に相場を知る入り口として使いやすい。
なお、転職エージェントは複数に登録して比較するのが定石だ。サービスによって持っている求人も、担当者との相性も異なる。医師転職ドットコムをまず最初の1社として登録し、相場の感覚をつかんだうえで、必要に応じて他のサービスも併用していくのが堅実な進め方である。大切なのは一社に決め打ちすることではなく、まず情報を得る場所を持つことだ。
繰り返しになるが、登録したからといって転職しなければならないわけではない。情報を得て、自分の市場価値を知る。それがリスクの小さい第一歩だ。
転職活動を始めるなら、求人を眺めて相場を知るところからで十分だ。医師転職ドットコムでは、非常勤・スポットを含めた求人を無料で確認できる。(PR) → 医師転職ドットコム
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まとめ
勤務医が手取りを大きく動かす道を並べると、常勤先の年収を上げることに行き着く。その現実的な手段が転職だ。けれども、「転職するかどうか」を今この場で決める必要はない。
決めるのは情報を得たあとでいい。「転職」にはリスクがあるが、「転職活動」のリスクはごく小さい。求人を見て、相場を知り、自分の市場価値を確かめる。その一歩は今の職場に何の影響も与えない。
そして、相場を知ったうえで転職しないと決める判断もよいだろう。現状を知ることで、今の職場に対して納得感が生まれ、よりよい仕事ができるだろう。エージェントを使う・使わないの分かれ目そのものを整理した記事も用意しているので、登録の前に立ち止まって考えたい場合は医師に転職エージェントは必要かも参照してほしい。
リスクの小さい転職活動から、まず始めてみる。その小さな一歩が、あなたの手取りや人生を変える起点になる。