結論:源泉徴収「だけ」では終わらない。多くの勤務医に追納が来る
常勤先に加えて非常勤・スポットのバイトをしている勤務医が確定申告をすると、「バイト先でちゃんと天引きされていたのに、さらに追納?」と驚くケースは少なくない。
理由はシンプルだ。バイト先で天引きされた源泉徴収額は"仮の概算"にすぎず、合算後の本来の税率(限界税率)で計算し直すと、多くの場合に不足するからである。
私も当初は「バイト先で引かれているなら大丈夫だろう」と思っていた。確定申告で実際に数字を並べて、初めて仕組みを理解した記憶がある。
この記事では、その仕組みを令和8年分(2026年分)時点の制度に基づいて分解する。自分の追納・還付額は、記事末尾の無料シミュレーターで確認できる。
なぜバイトの源泉徴収では足りないのか
ポイントは「年末調整は1か所でしかできない」という点だ。
- 常勤先:年末調整で、その1か所分の税額はきちんと精算される(どちらの勤務先で年末調整を行うかは主たる給与先で行う仕組みにまとめている)。
- バイト先:そこは「2か所目以降」の扱いになる。バイト先はあなたの全体の所得を知らないまま、概算で源泉徴収している。
つまり、全収入を合算して初めて"正しい税額"が出るのが確定申告だ。源泉が本来の税額より少なければ追納、多ければ還付になる。
なお、2か所以上から給与を受けている場合は、年末調整されなかった側の給与収入と、給与以外の各種所得の合計が年20万円を超えると、原則として確定申告が必要になる(国税庁 タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」)。給与収入の合計が一定額以下のときなどの例外はあるが、常勤にバイトを足す勤務医は、所得水準的にほぼ全員が申告する側に入る。また給与収入の合計が2,000万円を超える場合は、20万円の基準にかかわらず確定申告が必須だ。
バイトには2タイプある:「給与扱い」と「報酬扱い」
税金のかかり方が変わる重要な分岐なので、自分のバイトがどちらかを先に確認してほしい。
① 給与扱い(非常勤勤務など)
給与として「乙欄」で源泉徴収される。乙欄は2か所目の給与向けにやや高めに引く設計だが、それでも高所得帯の限界税率には届かないことが多い。合算すると不足しがちなのはこのためだ。
② 報酬扱い(業務委託・講演・原稿など)
報酬として、令和8年分時点では原則10.21%(所得税10%+復興特別所得税2.1%)が源泉徴収される。1回の支払いのうち100万円を超える部分は20.42%になる(国税庁 タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」)。
経費を差し引ける利点がある一方、10.21%という率は勤務医の限界税率よりずっと低いのが普通だ。
どちらのタイプも「源泉徴収率 < 本来の税率」になりやすい。これが追納の温床である。
追納の正体:累進課税の「限界税率」
ここが核心だ。所得税は累進課税で、課税所得が積み上がるほど、上に乗った所得には高い税率がかかる。
令和8年分(2026年分)の所得税率(課税所得の帯ごと・抜粋):
| 課税所得 | 所得税率 |
|---|---|
| 695万〜900万円 | 23% |
| 900万〜1,800万円 | 33% |
| 1,800万〜4,000万円 | 40% |
これに住民税(所得割)約10%(道府県民税4%+市町村民税6%、総務省 個人住民税)と**復興特別所得税(所得税額の2.1%、令和8年分まで適用)**が加わる。
限界税率帯別の実質的な手取り減を知りたい場合は、年収帯別・手取り早見表も参照されたい。
この計算、自分の条件で確かめてみる
常勤年収・バイトの種類・金額・控除の状況が変わると、追納額は大きく変動する。数字として把握したい場合は 複数勤務先の手取り・確定申告シミュレーター に条件を入れると、追納/還付見込み額を一発で算出できる。
例(仕組みを示すための概算)
すでに常勤で課税所得が900万円台(所得税33%の帯)に達している勤務医が、給与扱いの非常勤バイトで年100万円を得たとする。
- バイト先は「乙欄」で源泉徴収する。乙欄はやや高めに引く設計だが、高所得帯の限界税率には届かないことが多く、しかも源泉で引かれるのは所得税分のみだ。
- この100万円を確定申告で合算すると、所得税33%の帯に乗る → 本来の所得税は約33万円。
- これに住民税 約10万円(100万円 × 約10%)が加わり、本来の負担は合計**約43万円(+復興特別所得税分)**となる。
- ところが源泉で引かれていたのはその一部にすぎない。足りない所得税が確定申告での追納となり、住民税は源泉ゼロのまま翌年に請求される。
※これはあくまで仕組みを示すための概算だ。実際の額は、常勤の年収・バイトの種類と額・各種控除によって大きく変わる。正確な数字は、記事末尾のシミュレーターで自分の条件を入れて確認してほしい。
住民税は「翌年」に遅れてやってくる
もう一つの落とし穴が、住民税のタイムラグだ。
確定申告で確定した住民税は、その年ではなく翌年6月以降に請求が来る。バイトを頑張った年の翌年に、給与天引き(特別徴収)や納付書(普通徴収)で住民税がドンと増える。
「今年は稼いだのに、来年の手取りが減った気がする」——その正体はこの住民税の時間差だ。バイト収入を計画するときは、翌年の住民税増まで織り込んでおくのが安全である。
では、自分はいくら追納/還付になるのか?
仕組みが分かっても、金額は人によってまったく違う。常勤の年収、バイトの種類(給与か報酬か)、その金額、控除の状況で変動するからだ。
医師のお金計算室では、常勤+複数のバイトを入力すると、
- 年間の手取り額と、額面からの内訳
- 確定申告での追納/還付の見込み額
- 翌年の住民税の予告
までを一発で算出できる無料ツールを用意している。
まとめ:追納で慌てないために
- バイトの源泉徴収は"仮の概算"。確定申告で本来の税率に直され、多くの勤務医に追納が出る。
- 報酬扱いの10.21%は特に低い(令和8年分時点)。限界税率との差がそのまま追納になる。
- 住民税は翌年に遅れて来る。来年の手取り減も先に織り込んでおく。
- 不安なら、まず自分の金額をツールで把握し、必要なら追納分を先に取り分けておくのが堅実だ。
追納の金額が把握できたら、次のステップとして何をすれば税が減るかを確認してほしい。節税ハブ記事:勤務医の節税ベスト6に施策と効果額をまとめている。確定申告の実際の手順は確定申告のやり方ガイドを参照されたい。
節税には上限がある。制度をフル活用したうえで根本を動かすのは、働き方の見直しだ。どの手段がどこまで効くかは手取りを増やす手段を4つに整理した記事にまとめている。
本記事は令和8年分(2026年分)時点の制度に基づいた一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。税制は年度ごとに改正される場合があります。
著者:勤務医 Dr.マコト
大企業の税務・経理→再受験→勤務医。手取り・節税・社会保険の「実際の金額」を、公的資料で確かめてから書いています。