年収1,500万円の勤務医が、独身・扶養なし・iDeCoや生命保険料控除なしなら、ふるさと納税の上限額の目安は394,400円になる。このサイトのふるさと納税上限シミュレーターで実際に計算した値だ。同じ年収でも条件が違えば、この金額は変わる。
ふるさと納税は、上限までなら寄附額から2,000円を引いた全額が税金から戻ってくる。実質負担は2,000円だ。上限額より多く寄附すると、超えた分は戻ってこなくなってしまう。なので、この記事では上限額について解説する。
この記事で使うのは、このHPのシミュレーターの計算結果と、国税庁・総務省の一次情報である。二次情報は一切使用していない。
この記事でわかること
- 8つの所得層の上限額
- 配偶者がいても上限が1円も変わらない理由と、その他の上限を変えるもの
- 実質負担2,000円が成立する仕組みと、上限を超えると何が起きるか
年収800万円から3,000万円までの上限額
このサイトのふるさと納税上限シミュレーターで所得層ごとに計算すると、上限額は次のようになる。
| 年収(額面) | 上限額 |
|---|---|
| 800万円 | 130,700円 |
| 1,000万円 | 183,500円 |
| 1,200万円 | 249,000円 |
| 1,500万円 | 394,400円 |
| 1,800万円 | 497,400円 |
| 2,000万円 | 568,100円 |
| 2,500万円 | 852,800円 |
| 3,000万円 | 1,073,800円 |
いずれも独身・扶養なし・iDeCoや生命保険料控除なし・東京都・40歳未満・賞与なしという条件で計算した値だ。冒頭の394,400円も、この条件のもとでの金額になる。
条件が1つ変われば、金額も変わる。この表はスケール感をつかむためのものであって、そのまま自分の上限として使える数字ではない。
ポイント:上限額は年収のみで決まるわけではない
年収1,500万円という事実だけでは、上限額は決まらない。扶養・iDeCo・社会保険料まで含めた条件の組み合わせで決まる。次では、何が上限額を変えて何が変えないのかを見ていく。
なお、この表の入力は賞与なしの月給を12倍したものになっている。月給を1円単位で丸めた関係で、年収欄の表示額と実際の入力額が数円ずれる層がある。上限額は100円未満を切り捨てて算出されるため、この数円の差は結果に影響しない。
配偶者がいても、上限は1円も変わらない
変わらないものから先に見ていく。年収1,500万円で配偶者ありに設定して計算し直しても、上限額は394,400円のまま1円も変わらない。
理由は配偶者控除の所得制限にある。国税庁のタックスアンサーNo.1191は、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は配偶者控除を受けられないとしている。住民税の側も同じで、本人の前年の合計所得金額が1,000万円を超えていれば配偶者控除の適用はない。
年収1,500万円の給与所得者の合計所得金額は1,305万円になる。1,000万円をはるかに超えているので、配偶者がいてもいなくても控除額は変わらず、住民税の課税所得も変わらない。だから上限額も変わらない。
ここが、一般向けの早見表を医師に適用しにくい部分だ。世帯構成を選ばせる早見表は多いが、その選択肢が意味を持つのは本人の合計所得が1,000万円以下の場合に限られる。医師の所得層では、配偶者の欄は意味をなさない。
Dr.マコト・勤務医
一般向けの記事は、読者の大半が年収1,000万円以下であることを前提に書かれている。医師が読むときは、その前提が自分に当てはまるかを立ち止まって確認したほうがいい。この配偶者の欄は、その典型例だ。
扶養・iDeCo・社会保険料で上限額は変わる
配偶者で上限額は変わらないが、扶養・iDeCo・社会保険料で上限額は変わる。同じ年収1,500万円で条件を変えて計算した結果が次のとおりだ。
| 条件 | 上限額 | 独身・控除なしとの差 |
|---|---|---|
| 一般の扶養親族1人 | 382,700円 | −11,700円 |
| 一般の扶養親族2人 | 371,000円 | −23,400円 |
| iDeCo 年24万円 | 385,900円 | −8,500円 |
| 40歳以上(介護保険料あり) | 390,100円 | −4,300円 |
一般の扶養親族が1人増えるごとに11,700円ずつ下がっている。iDeCoを年24万円かけると8,500円下がる。40歳を超えて介護保険料が加わるだけでも4,300円下がる。
ポイント:課税所得を下げるものは、すべて上限を下げる
扶養控除もiDeCoも社会保険料控除も、住民税の課税所得を減らす。課税所得が減れば所得割額が減り、所得割額を基準に決まる特例分の枠も減少する。逆に、配偶者控除のように所得制限で受けられない控除は、課税所得を1円も減らさない。課税所得が減らなければ、上限額も変わらない。
iDeCoの行は、節税手段どうしが干渉することを示している。iDeCoで所得控除を取ると、ふるさと納税の枠はそのぶん小さくなる。どちらも得な施策だが、片方を増やせばもう片方が減るという関係にある。
医師の上限は、勤務先1か所では決まらない
ここまでの計算は、収入を1か所から受け取る前提で算出している。勤務医の場合、その前提が崩れることが多い。
常勤とバイトを合算して上限額が算出される
常勤先の年収1,500万円だけで計算すると、上限額は394,400円になる。ここにバイトの年240万円を足して計算し直すと、479,700円まで上がる。差は85,300円だ。
上限を決めるのは勤務先ごとの年収ではなく、その年に受け取る給与の合計になる。常勤分だけで計算した人は、上限を8万円以上低く見積もっていることになる。枠を余らせたまま年末を迎えて、使えたはずの控除を使い損ねる。
バイトの件数が多いほど、この取りこぼしは大きくなる。上限額を算出するときには、常勤先の年収とバイト先の収入を全部足した金額で計算する。
転職や異動の年は、今年の見込みで出す
上限を決めるのは、寄附する年の所得だ。前年の源泉徴収票に書かれた金額ではない。
医局人事で異動した年、常勤先が変わった年、非常勤の本数が変わった年は、前年と年収が大きく変わる。この場合、前年の実績で計算した上限は当てにならない。年の途中で判断するなら、今年の見込み年収で出しておいて、年末に確定した金額で確かめ直すことが望ましい。
危ないのは、年収が下がる方向に動いた年だ。前年の実績のつもりで寄附すると、上限を超える。なので、年末に金額が確定するまでは低めに抑えておくのが安全策だ。超えた分がどうなるかは、このあとの節で見る。
年収が2倍になると、上限額は3倍以上になる
冒頭の年収別の表に戻る。年収1,000万円と2,000万円を比べると、年収は2倍だが上限額は183,500円から568,100円へと3倍以上に伸びる。手取りの比率が年収とともに下がっていくのとは、対照的な動きだ。累進課税で多く納めている人ほど、ふるさと納税に回せる枠は大きくなる。
上限を超えた分は、戻ってこない
ここまでは上限がいくらになるかの話だった。次に、上限額が算出される仕組みを解説する。
3つの控除と、実質2,000円の正体
ふるさと納税で戻ってくる税金は、3つの控除でできている。この仕組みがあることによって、ふるさと納税は上限額以内の寄附であれば実質2,000円の負担になる。興味がない場合は読み飛ばしてもらって構わない。
1つ目は所得税からの控除だ。寄附額から2,000円を引いた額に、自分の所得税率をかけた分が戻る。2つ目は住民税の基本分で、同じ額に10%をかけた分が戻る。この2つだけなら、所得税率3割の場合で戻るのは4割程度にとどまる。一般の寄附金控除と変わらない水準だ。
3つ目が住民税の特例分になる。これは1つ目と2つ目で戻りきらなかった残りを、全部引き受けるための装置だ。この3つ目があるから、寄附額から2,000円を引いた額が丸ごと戻り、実質負担が2,000円で済む。
ただし、3つ目の装置には天井がある。住民税の所得割額の20%までしか使えない。
天井の内側にいるかぎり、実質負担は2,000円で固定される。天井を超えると、3つ目は頭打ちになり、超過分は1つ目と2つ目でしか戻らなくなる。一般の寄附と同じ扱いに戻るということだ。総務省も、この切替が起きると3つの控除を合計しても寄附額から2,000円を引いた全額は控除されないと明記している。実質負担は2,000円では収まらなくなる(出典:総務省「税金の控除について」)。
上限を1円でも超えて寄附すれば、3つ目はもう伸びない。増えるのは1つ目と2つ目の分だけで、超過分は半分以上が自己負担になる。
超えた分は返礼品として手元に残る。ただし税の側では戻ってこない。だから上限は、余裕を持って超えておくものではなく、正確に出して手前で止めるものになる。
ポイント還元が禁止された今、上限額が唯一の論点になる
2025年10月1日から、寄附に伴うポイント付与を行う事業者を通じた募集が禁止された。根拠は令和6年総務省告示第203号で、総務省が2024年6月28日に公表した指定基準の見直しによるものだ。クレジットカードの通常決済で付くポイントのように、通常の商取引の決済に伴って提供されるものは対象外とされている。
つまり、どのサイトを経由すれば得かという比較は意味を失った。残った問いは、自分がいくらまで寄附できるのかだけになる。
ふるさと納税は節税ではない。一方で、上限額を動かすiDeCoや社会保険料は、手取りそのものを増やす打ち手でもある。手取りの側から全体を整理した記事がある。
医師ができる節税手段の全体像は勤務医の節税対策6選で扱っているので、何をすれば税が減るのかを知りたい場合はそちらから読むほうが早い。
確定申告かワンストップ特例か
上限額が決まったら、次は控除の適用方法を選ぶことになる。しかし、医師の場合は一般向けの説明と前提がずれる。
ワンストップ特例が使えるのは、確定申告が不要な給与所得者などで、寄附先が5団体以内の場合に限られる。常勤先で年末調整を受けていても、年末調整されなかったバイト先の給与などの合計が年20万円を超えれば、原則として確定申告が必要になる。勤務医は、医局からのバイトや複数勤務先の収入があって確定申告をする人が多い。国税庁 タックスアンサーNo.1155「ふるさと納税(寄附金控除)」は、確定申告を行う場合にワンストップ特例の申請が無効になると明記している。申請した分も含めて、寄附金控除額を計算し直すことになる。
つまずきやすいのは申告書の記載だ。確定申告書第二表の「住民税に関する事項」にある、都道府県・市区町村への寄附(特例控除対象)の欄に書き漏らすと、住民税の側で控除されないことがある。所得税だけ控除されて住民税が控除されないという中途半端な状態になる。
Dr.マコト・勤務医
ワンストップの申請書を出した後で、年末になって確定申告が必要だと気づくことがある。先に確定申告をする前提で考えておくほうが、手戻りが少ないだろう。
なお、ワンストップを申請した人が寄附金控除を適用せずに確定申告してしまった場合は、更正の請求によって適用を受けられる。気づいた時点で取り戻す方法があることは覚えておいて損はないだろう。
まとめ:上限は、自分の条件でしか出ない
要点を整理する。
- 年収1,500万円・独身・控除なしの上限額は394,400円。ただし条件が変われば金額も変わる
- 配偶者がいても上限は変わらない。本人の合計所得が1,000万円を超えると配偶者控除が適用されないため
- 上限を変えるのは扶養・iDeCo・社会保険料。課税所得を下げるものは、すべて上限を下げる
- 常勤とバイトは合算して1つの上限になる。常勤分だけで計算すると上限を低く見積もる
- 年収が2倍になると上限額は3倍以上に伸びる。手取りの比率とは対照的な動きになる
- 実質負担2,000円は、住民税の特例分が残りを全部引き受けることで成立している。その特例分には所得割額の20%という天井がある
- 上限を超えた分は税から戻らない。超過分は半分以上が自己負担になる
上限額は年収のみで決まるわけではない。扶養・iDeCo・社会保険料まで含めた自分の条件で決まる。だから年収だけを入れる早見表では、正確な金額は出ない。
ふるさと納税上限シミュレーターに自分の条件を入れれば、その場で上限額が出る。年収の欄には、常勤とバイトを合算した今年の見込み額を入れる。寄附先を選ぶのは、その数字を見てからでいい。