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税金・確定申告

医師の退職金とそれにかかる税金|控除の上限とiDeCoの活用方法

勤務医 Dr.マコト|公開:

医局に所属している間、退職金に関する話題はほとんど聞こえない。医局人事での短期間の雇用契約となることが多く、退職手当の支給対象とならない場合が少なくないからだ。市中病院に移っても、数年ごとに勤務先が変われば勤続年数は伸びない。退職金にかかる税金と言われても、自分に関係のあるようには思えない。

それでも、資産形成を考える以上は、退職金を含む退職所得控除の上限は以下の3つの点から自分に関わってくることになる。

  • iDeCo・企業型DCの一時金は、税制上は退職金と同じく退職所得とみなされる。 勤務先に退職金がなくても、退職所得という制度自体が自分に関係してくる
  • 市中病院や公的病院に腰を据えた瞬間から、勤続年数が積み重なり始める。 どこで長く勤めるかという選択に、控除の計算式が効いてくる
  • 転職のたびに、退職所得控除に関する期間はリセットされる。 通算の勤続年数が同じでも、控除の上限は変わってくる

退職金にかかる税金を決めているのは、勤続年数で決定する退職所得控除である。計算式は国税庁が公表しているので、自分の勤続年数を当てはめれば控除の上限は算出できる。私は医師になる前に税務・経理の実務を経験しており、制度は一次情報で確認して執筆している。この記事も国税庁のタックスアンサーと厚生労働省・総務省および自治体の公表資料で裏を取っている。

ここで扱うのは、勤続年数と退職所得控除の上限についてである。

この記事でわかること

  • 勤務先に退職金がなくても、退職所得控除の上限が関係する理由
  • iDeCo・企業型DCの一時金が、退職所得としてどう扱われるか
  • 退職所得控除の計算式と、勤続20年を境に単価が上がる仕組み
  • 勤務先が途中で分かれたとき、控除の上限がいくら縮むか
  • 退職所得の受給に関する申告書を出さなかった場合の対策

こんな人に

勤務先に退職金がない、または同一勤務先での勤続年数が伸びなくても、退職所得の上限が自分にどう関係するのか整理したい勤務医の先生

医師はなぜ退職金に馴染みがないのか

大学病院の医局に所属しているときは、任期付きや単年契約の雇用形態になることが多い。在籍期間が長くなっても、退職手当の支給対象外となる雇用形態は珍しくない。退職手当の有無や金額を決めているのは法律ではなく、勤務先ごとの退職金規程である。

市中病院に移っても事情はあまり変わらない。関連病院を転々とする働き方では、同一病院での勤続年数は伸びない。退職金制度は勤続年数をベースにしているため、そもそも医局人事とは相性が悪い。

制度そのものがない勤務先もある。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は、全業種平均で74.9%、「医療,福祉」で75.5%だった。裏を返せば、およそ4分の1の勤務先には制度がないことになる。

私自身、医局にいた時期に退職金の話を耳にしたことはほとんどない。話題にならない以上、仕組みに関心を持つこともない。

こうして「うちには退職金がない」で話が終わりやすい。しかし、退職所得控除の上限は退職金が得られなくても勤続年数で変わるため、多くの勤務医に関係してくる。まずは制度の枠組みを確認する。

退職所得控除は、勤続20年を境に年40万円から年70万円へ

退職金にかかる税は、給与とは別の計算で決まる。国税庁のタックスアンサーNo.1420によると、退職所得の金額は次の式で計算する。

退職所得の金額 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1

収入金額は源泉徴収される前の金額を指す。ここから退職所得控除額を差し引き、残った金額をさらに半分にする。そのうえで、原則として他の所得と分離して所得税額を計算する(分離課税)。給与と合算されて税率が跳ね上がる、ということにはならない。

この式のうち、勤続年数で変動するのは退職所得控除額だけである。2分の1の部分も分離課税も勤続年数では変わらない(勤続5年以下の例外は後述する)。だから退職金の税金を左右するのは、実質的に控除の上限の大きさになる。

その控除額の計算式は、勤続年数で2段階に分かれる。

  • 勤続20年以下 … 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
  • 勤続20年超 … 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

1年あたりの単価が、20年を超えた部分だけ40万円から70万円へ上がる。長く勤めるほど1年の重みが増す設計になっている。

式に勤続年数を入れると、控除の上限は次のようになる。

勤続年数退職所得控除額
20年800万円
30年1,500万円
35年1,850万円
40年2,200万円

数え方にも決まりがある。勤続年数に1年未満の端数があるときは、その端数を1年に切り上げる。19年11か月の勤務は20年として数える。また、障害者になったことに直接基因して退職した場合は、上の控除額に100万円を加える。

控除の単価は勤続20年を境に年40万円から年70万円へ上がる。1か所に長く勤めるほど、1年あたりの控除の上限は大きくなる。

同じ年数でも、勤務先が分かれると控除の上限は下がる

ここまでは1か所に勤め続けた場合の上限を記載した。だが、医師のキャリアでは、勤務先が途中で変わるのが一般的である。勤続20年を超えると控除の単価が上がって有利になるが、医師のキャリアでその条件に当てはまることは多くない。むしろ勤務先が頻繁に変われば、控除の上限は伸びにくくなる。そのため、以下では勤務先が途中で変更になった場合の影響を算出してみる。

通算の勤続年数が同じでも、1か所で勤め上げた場合と2か所に分かれる場合では、控除の上限が変わる。年70万円という単価は、勤務先ごとの勤続年数で判定するからだ。各病院の勤続が20年以下なら、どちらの勤務先でも単価は年40万円のままになる。

式で並べると差がはっきりする。

  • 1病院で通算n年(n>20)… 800万円 + 70万円 ×(n − 20)
  • 2病院に分かれ、各病院20年以下(a年+b年、a+b=n)… 40万円 × a + 40万円 × b = 40万円 × n

2病院に分割した側は、単純に年40万円に通算年数を乗じた金額になる。20年超の単価が一度も出てこないためだ。実際に当てはめると、控除の上限の差はこうなる。

通算の勤続1病院で勤めた場合2病院に分かれた場合控除の上限の差
20年800万円10年+10年で800万円0円
25年1,150万円15年+10年で1,000万円150万円
30年1,500万円15年+15年で1,200万円300万円

通算20年までは、勤務先が分かれても控除の上限は変わらない。単価が年40万円のままだからだ。差が出るのは、1か所での勤続が20年を超えて年70万円の単価が発動する場合に限られる。

この計算には5つの前提がある。

  • それぞれの勤務先から退職金が支給される
  • 勤続年数に1年未満の端数がない
  • 後述する重複排除の特例が適用されない
  • 障害者になったことに直接基因した退職ではない
  • 役員等・短期退職手当等(勤続5年以下)に該当しない

1つ目をわざわざ前提に置いたのは、退職金の支給が自明ではないからだ。

読み方のポイントを2つ、先に補足しておく。

1.表のいちばん右の列にある0円、150万円、300万円は、退職所得控除の上限の話であって、税金の金額の差ではない。 控除の上限が300万円減ったからといって、税金が300万円増えるわけではない。退職所得は控除後の金額をさらに半分にしてから課税されるうえ、適用される税率は各人の状況で変わる。実際に税金がいくら変わってくるかは人によって違う。

2.この2病院モデルは、1つ目の勤務先からの退職金の受給後、5年以内に2つ目の勤務先の退職金を受け取らない場合の前提である。 5年以内に受け取ると、あとで説明する重複排除の特例が働き、控除の上限は減少する。

ここで申し添えたいのは、退職金の控除の上限が減るからといって、それだけで転職の是非を判断しないでほしいということだ。勤務環境や年収、労働条件など、転職の是非にあたって考慮すべき点は山ほどある。退職所得控除の上限の話は、あくまでその中の一つとして捉えていただきたい。

Dr.マコト・勤務医

控除の上限の差は、手残りの金額の差とは異なる。差の2分の1に税率を乗じた程度が、手残りの差の目安になる。

医師の退職所得控除にiDeCoを活用できる

ここから先は専門的な話になるので、先に重要な結論を記載する。

勤務先から退職金が出なくても、ここまで見てきた退職所得控除には使い道が残る。掛金を積み立ててきたiDeCo・企業型DCの資産を、一時金で受け取るときである。

タックスアンサーNo.1420には、確定拠出年金法に規定する企業型年金規約または個人型年金規約に基づいて老齢給付金として支給される一時金なども退職所得とみなされる、と明記されている。一時金で受け取ったその金額は、退職所得として所定のルールに従って課税される。

つまり、医局の雇用形態の関係で退職手当の対象外であっても、掛金でiDeCoや企業型DCを活用してきた場合は退職所得控除を活用できることになる。

これ以降は専門性が高いため、興味のある方や深く理解したい方だけ読んでいただければと思う。

退職金などで退職所得控除を複数回活用しようとすると、条件が付与されることがある。退職金を複数回受け取る場合、退職所得控除には勤続期間の重複を排除する特例があるからだ。iDeCoや企業型DCの老齢給付金を一時金で受け取る場合も、この特例の対象になる。タックスアンサーNo.2735によると、期間は3通りに分かれる。

  • 5年以内に退職手当等の支払を受けている場合 … その勤続期間と重複する期間を控除して計算する
  • 10年以内に確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金(令和8年1月1日以後に支払を受けたものに限る)の支払を受けている場合 … 重複排除の対象になる
  • 20年以内に退職手当等の支払を受け、本年中に確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金の支払を受ける場合 … 特例の対象になる

少々難解であるが、ここは誤解しやすい箇所なので、正確に解説する。10年以内の条件が関わってくるのは、老齢一時金を先に受け取っていて、あとから退職手当等を受け取る場面である。しかも対象は、令和8年(2026年)1月1日以後に支払を受けた老齢一時金に限られる。令和7年(2025年)12月31日以前に老齢一時金を受け取っている場合は、この10年ルールの対象外である。

どの年に何を受け取るかで結論が変わるため、一般論で個別の可否を断定することはできない。受け取りの順番を具体的に検討する段階になったら、税務署または税理士に確認しておきたい。

勤続5年以下の退職金は、計算が変わる

5年以内に退職して退職手当を受け取る場合、役員かそれ以外かで扱いは異なるが、2分の1の課税となるルールの適用が制限される。役員以外の場合は、退職金から退職所得控除を引いた額のうち300万円を超える部分に、2分の1が適用されない。医局人事で数年おきに病院を転々としている場合は、この制度の対象となることがあるだろう。

短期退職手当等(役員等以外)

役員等以外の者として勤務した期間で計算した勤続年数が5年以下の場合、その退職手当等は短期退職手当等と呼ばれる。国税庁のタックスアンサーNo.2740によると、計算は残額で分かれる。

  • 収入金額から退職所得控除額を引いた残額が300万円以下 … 退職所得の金額=(収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1
  • 残額が300万円を超える … 退職所得の金額=150万円 +{収入金額 −(300万円 + 退職所得控除額)}

300万円を超える部分には、2分の1の計算が適用されない。こうして計算した退職所得の金額に所定の税率を乗じた金額を、税金として納めなくてはいけない。この扱いは令和4年1月1日以後に支払うべき退職手当等から適用されている。

特定役員退職手当等(役員等)

役員等としての勤続年数が5年以下の場合は、特定役員退職手当等に当たる。タックスアンサーNo.2737によると、こちらは2分の1の計算がそもそも適用されない。特定役員退職手当等だけを受け取る場合、退職所得の金額は収入金額から退職所得控除額を引いた金額そのものになる。役員等の勤続年数も、1年未満の端数は1年に切り上げる。

この「役員等」には次の者が含まれる。

  • 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人および経営に従事する一定の者
  • 国会議員および地方公共団体の議会議員
  • 国家公務員および地方公務員

勤務医が関係し得るのは、医療法人の理事や理事長として勤務した期間が5年以下で退職手当を受け取る場合である。あるいは、公立病院などで地方公務員として在職5年以下で退職手当を受け取る場合になる。ただし自分の身分がどちらに当たるかは、勤務先の法人形態と職の扱いによる。判断が必要なときは、勤務先の事務担当か税務署に確認するのが確実である。

「退職所得の受給に関する申告書」の提出を忘れずに

ここまでは金額の大きさの話だったが、手続きについても説明する。iDeCo・企業型DCの一時金を受け取るときも、勤務先の退職金を受け取るときと同じ書類が必要となる。

退職金を受け取るときには、支払者へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出する。タックスアンサーNo.2732によると、扱いは提出の有無で次のとおり分かれる。

  • 提出した場合 … 支払者が勤続年数に応じた退職所得控除額を計算し、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」の算式で税額を計算して源泉徴収する。確定申告は原則として不要
  • 提出しなかった場合20.42%(復興特別所得税を含む)が源泉徴収される。受給者本人が確定申告をして精算する

つまり、提出すれば、先に説明したルールのとおり控除も2分の1も反映された税額がその場で引かれて完結する。提出しなかった場合は一旦多く引かれることがあるが、確定申告をすれば精算できる。出し忘れても取り返しはつく。ただし自動では戻らないので、手続きが煩雑となる可能性がある。

申告書を出さないと20.42%で源泉徴収される。

住民税10%は、退職した年にその場で引かれる

退職金には所得税だけでなく、住民税10%もかかる。給与にかかる住民税と違い、退職した年に、退職金が支払われるその場で差し引かれる(現年分離課税)。翌年に請求が来るのではない。

医師の退職金の「平均額」に、公的な裏付けはない

医師の退職金の平均額は、公的統計には見当たらない。退職給付の代表的な公的統計である厚生労働省の就労条件総合調査で、職種区分に医師が切り出されていないためである。平均を探すより、勤務先の退職金規程を確認するほうが早い。

まとめ:退職金がなくても、退職所得控除は活用できる

この記事の要点

  • 医局の任用形態では、退職手当の支給対象外となる場合が多い。制度そのものがない勤務先もおよそ4分の1ある
  • iDeCo・企業型DCの老齢給付金を一時金で受け取ると退職所得とみなされる。勤務先に退職金がなくても、退職所得控除の上限は使える
  • 退職金の税は(収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1を分離課税で計算する。勤続年数で変動するのは控除額だけ
  • 控除の単価は勤続20年を境に年40万円から年70万円へ上がる(20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年))
  • 通算年数が同じでも、勤務先が複数に分かれると控除の上限は減少する
  • 勤続5年以下では、控除後の300万円を超える部分に2分の1の計算が適用されない(役員等は2分の1の計算がそもそもない)
  • 退職所得の受給に関する申告書を出さないと20.42%で源泉徴収される。出さなかった場合は確定申告で精算できる
  • 住民税10%は退職した年に、退職金からその場で差し引かれる
  • iDeCo・企業型DCの一時金を受け取って10年以内に退職金を受け取ると、控除額が目減りする(令和8年1月1日以後に受け取った一時金に限る)
  • 退職金を受け取って5年以内に異なる勤務先から退職金を受け取ると、控除額が目減りする

退職金の税金に関して節税することは困難である。勤続年数や控除の式の変数は、自分で選択できるものではない。自分で選択できるのは、そもそもどこを勤務先にするのかという点くらいである。

なお、退職金の金額そのものを計算するツールは当サイトにはない。支給額は勤務先の退職金規程で決まるためで、税制の側から逆算できる性質のものではない。手取りシミュレーターで試算できるのは、年収がいくら変わると手取りがどう変動するのかという年収差のほうである。勤務条件を比較する場面では、こちらが役に立つ。

▶ 手取りシミュレーターで年収差を試算する

年収の水準ごとに手取りがどう変わるかは勤務医の年収別手取り早見表に、手取りを動かす手段の全体像は手取りを増やす4つの鍵に整理している。転職という選択肢を検討する段階なら、医師に転職エージェントは必要かで、使う場合と使わない場合を中立に並べている。


本記事は2026年8月時点の国税庁・厚生労働省・総務省および自治体の公表資料に基づいて作成しています。退職所得の課税関係は、勤務先の身分の扱い・受給の時期・過去の受給歴によって異なります。個別の税務判断については税務署または税理士にご確認ください。

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