初めてバイトの給与明細を見たときの正直な感想は、「ん? 意外と引かれていないな。ラッキー」だった。その数か月後、確定申告で追納の数字を見て凹むことになる。
逆に、「本業よりずっと引かれている。高すぎないか」と感じた人もいるはずだ。
実は、どちらの体感も正しい。バイトの給与は「乙欄」という仕組みで源泉徴収される。同じ金額を本業で受け取るときより多く引かれる——それなのに、本業の年収が高い人では、本来の税負担にはまだ届かないことが多い。引かれた額は確定申告で精算され、戻るか足りないかは本業の年収帯で決まる。この記事では、その仕組みと分かれ目を、実際の税額表とシミュレーターの実測で示す。
この記事でわかること
- バイト代が「引かれすぎ」に見える理由(乙欄の仕組み)
- 給与バイトと報酬(講演料・原稿料等)で源泉のルートが違う理由
- 還付になる人・追納になる人の分かれ目
- 確定申告が必要になる条件(20万円ルールの正確な適用)
結論:バイトの源泉は「多めの前払い」
乙欄の源泉徴収は、損でも取られ損でもない。精算前の概算額だ。
なぜそうなるかというと、バイト先はあなたの常勤での総収入を知らない。全体の所得が分からないまま、「2か所目以降の給与」向けに設計された乙欄レートで仮に天引きしている。この概算と「本当の税額」のズレを、確定申告が精算する。
精算の結果が還付側か追納側かを決めるのは、本業常勤の限界税率だ。
乙欄源泉は精算前の概算払い。還付か追納かは確定申告で初めて決まり、本業の限界税率が分かれ目になる。
限界税率とは何か
平均税率とは違う。「次に稼いだ1円から、いくら持っていかれるか」の割合のことだ。
課税所得が900万円〜1,800万円の帯にある医師の限界税率(所得税)は33%だ。これに住民税10%が乗るため、バイト収入のうち43%超が税と住民税に消える計算になる(さらに復興特別所得税が所得税額の2.1%加わる)。
一方、乙欄で引かれる率は、この限界税率より低いことが多い。そのズレが、追納側に振れる主因だ。
逆に言えば、乙欄の概算が限界税率を上回っていれば還付側になる。どちらに振れるかは、本業の年収帯と控除の状況次第だ。「バイトすれば必ず還付」という話ではない。高年収帯(本業の限界税率が高い医師)は、追納側に振れやすい。
甲欄と乙欄——2枚目の給与が高く引かれる仕組み
源泉徴収の税額表には「甲欄」と「乙欄」がある。
どちらの欄を使うかは「扶養控除等申告書」の提出状況で決まる。
扶養控除等申告書は、1か所にしか提出できない。
これが核心だ。常勤先に出している医師は、2か所目以降のバイト先には出せない。扶養控除等申告書のある勤務先は甲欄で計算され、申告書のないバイト先は原則として乙欄で計算される。(出典:国税庁 タックスアンサー No.2520「2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2520.htm)
乙欄は控除が反映されない分、甲欄より高い税率が適用される設計になっている。これが「バイト代が引かれすぎ」に見える構造的な理由だ。
乙欄の実額(令和8年分 月額表)
以下は、令和8年分 給与所得の源泉徴収税額表(月額表・乙欄)に基づく源泉徴収税額の目安だ。社会保険料等を控除した後の給与月額が基準になる。
| 社保控除後の給与月額(目安) | 乙欄の源泉徴収税額 |
|---|---|
| 100,000円 | 3,063円 ※ |
| 200,000円 | 19,700円 |
| 300,000円 | 53,600円 |
表の使い方: 乙欄は「額面」ではなく、社会保険料等を控除した後の給与月額に対応する行で引く。額面の金額で表を見ると税額を読み違えるので注意する。
※ 100,000円は月額表の「105,000円未満」の帯にあたり、この帯の乙欄は一律で月額の3.063%として計算する(100,000円×3.063%=3,063円)。200,000円は「199,000円以上201,000円未満」、300,000円は「299,000円以上302,000円未満」の該当行の税額をそのまま転記した。
出典:国税庁「令和8年分 給与所得の源泉徴収税額表(月額表・乙欄)」(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/data/01-07.pdf)
Dr.マコト・勤務医
乙欄の税率は「固定の何%」ではなく、給与月額によって段階的に変わる。月額が上がるほど乙欄の実効率も上がる設計だ。表を見ると、甲欄(扶養なし)より常に高くなっている。
「報酬」との違い——明細のどこを見るか
バイト代には、大きく2種類がある。「給与」か「報酬」かだ。この区分によって、源泉のルートも精算のやり方も変わる。
給与扱いのバイト(非常勤勤務など)
非常勤として病院に勤務し、給与として支払われるものが該当する。源泉徴収税額は乙欄で計算され、確定申告で給与所得として精算される。手元に届く書類は「源泉徴収票」だ。
報酬扱いのもの(講演料・原稿料など)
講演料・原稿料・執筆報酬などは「給与」ではなく「報酬」にあたる。源泉徴収の率は原則10.21%(所得税10%+復興特別所得税2.1%)だ。支払金額が100万円を超える部分は20.42%になる。(出典:国税庁 タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2795.htm)
確定申告での扱いは「雑所得」になり、経費を差し引ける。手元に届く書類は「支払調書」だ。
医師の収入は、給与と報酬が混在しやすい。乙欄の非常勤給与に加え、産業医・健診の収入(原則「給与」で源泉徴収票が届く)、講演・原稿(「報酬」で支払調書が届く)と、明細や送付書類が異なる。
給与か報酬かは、届く書類で見分ける。源泉徴収票=給与、支払調書=報酬。精算のルートが変わるので区分は重要だ。
Dr.マコト・勤務医
報酬の源泉10.21%は、高所得帯の医師の限界税率(所得税33%+住民税10%)と比べると、かなり低い。給与の乙欄より追納が大きくなるケースも多い。詳しくはバイト税の記事で解説している。
→ 乙欄・報酬源泉の仕組みをさらに詳しく知りたい場合は医師のバイト代、確定申告でいくら取られる?を参照してほしい。
還付になる人、追納になる人——分かれ目は限界税率
乙欄の実効率が、本業の限界税率より低ければ追納側に振れる。高ければ還付側だ。
医師の場合、本業の常勤年収が高いほど限界税率は高くなる。年収帯ごとの限界税率の目安は勤務医の年収別 手取り早見表にまとめているので、まず自分の年収帯がどの帯に入るかを確認してほしい。
ツールによる数値例(前提条件を必ず確認のこと)
追納・還付の実額は条件によって大きく変わるため、ここでは手取りシミュレーター(/tools/take-home)の計算結果のみを参考として示す。
以下は、同じ「バイト月20万円(年240万円・給与・乙欄)」のまま、本業の年収だけを変えて試算した2ケースだ。いずれも賞与なし・東京・独身・40歳未満・バイトは社会保険の対象外という前提で揃えている。
条件A:本業 月給約83.3万円(年約1,000万円)
- バイト:月20万円(年240万円・給与・乙欄)/賞与なし・東京・独身・40歳未満・バイトは社保対象外
- 源泉徴収の合計 約106.0万円 に対し、本来の所得税は 約135.9万円。
- → 確定申告で 追納 約29.9万円。
条件B:本業 月給125万円(年1,500万円)(バイトを含むその他の条件はAと同じ)
- 源泉徴収の合計 約233.5万円 に対し、本来の所得税は 約290.8万円。
- → 確定申告で 追納 約56.9万円。
同じバイト条件でも、本業を1,000万円から1,500万円に上げただけで、追納は約29.9万円から約56.9万円へと約2倍近くに膨らむ。
理由は乙欄源泉の構造にある。バイトの乙欄源泉は月20万円で年約23.6万円(前掲の表の月19,700円×12)だ。この概算額は、「上乗せの240万円」に本業の高い限界税率がかかったときの本来の負担には届かない。本業の年収が高いほど、その上乗せ分にかかる限界税率は高くなる。だから乙欄で先払いした概算と本来の税額との差=追納は、本業年収が高い人ほど大きくなる。
実効負担率で見るとさらに明確だ。ここで実効負担率とは、バイト収入(年240万円)に対して、乙欄の源泉徴収・確定申告の追納・翌年の住民税を合わせた税負担が占める割合を指す。この定義で計算すると、バイト分の実効負担率は条件Aで約32.5%、条件Bで**約43.7%**になる。同じ240万円を稼いでも、本業が高い人ほど手元に残らない。
「バイトすれば必ず還付」という見方は誤りだ。ここで見たとおり、医師のように本業の所得が高い層では、乙欄源泉が本来の負担に届かず追納側に振れるのが基本になる。還付になるのは、本業の課税所得が低めで、限界税率が乙欄の実効率を下回るような限られたケースだ。
高年収帯(限界税率が高い)ほど追納側に振れやすい。「乙欄だから還付になる」は誤解だ。分かれ目は本業の限界税率にある。
この計算を自分の条件でやってみるには、手取りシミュレーターが一番速い。
精算の手続き——確定申告が必須になる条件
バイト収入の税額精算は、確定申告で行う。ここで「必ず申告が必要か」を正確に把握しておく。
所得税の申告義務(いわゆる20万円ルール)
2か所以上から給与を受けていて、主たる給与以外の給与と他の所得の合計が20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要だ。(出典:国税庁 タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm)
バイト収入が給与である非常勤・スポット勤務の場合、年間で20万円を超えたら申告が必要になる。年間12か月換算で月2万円弱相当だ。医師のバイト代の水準では、ほぼすべてのケースで申告義務が発生する。
住民税は金額によらず申告が必要
重要な注意点がある。所得税の「20万円ルール」は住民税には適用されない。
バイト収入が20万円以下で所得税の申告が不要な場合でも、住民税の申告は必要だ。確定申告をすれば住民税の申告を兼ねるが、確定申告をしない場合は別途、市区町村への住民税申告が必要になる。
この点を見落とすと、後から住民税の無申告として問題になることがある。「所得税は申告不要だから何もしなくていい」は誤りだ。
源泉徴収票の集め方
確定申告では、常勤先とすべてのバイト先の源泉徴収票を揃える必要がある。集め方の手順は勤務医の確定申告、何から始める?に詳しくまとめてあるので合わせて参照してほしい。
Dr.マコト・勤務医
住民税の申告義務は、20万円ルールの対象外だ。この2つを混同して「バイト少ないから申告不要」と住民税もスルーするのは、後でトラブルになりやすい。確定申告をする年は申告が住民税も兼ねるので、基本的には確定申告を出すほうが楽だ。
まとめ:「引かれすぎ」は前払い。どちら側かは計算で分かる
この記事で押さえるべきことを整理する。
- バイト代に適用される「乙欄」は、2か所目以降の給与に自動適用される源泉徴収の仕組みだ。扶養控除等申告書は1か所にしか出せないため、バイト先は甲欄が使えず乙欄になる。
- 「引かれすぎ」に見えるのは取られ損ではなく、確定申告で精算される前払いだ。
- 精算の結果が還付か追納かは、本業の限界税率と乙欄の実効率の差で決まる。高年収帯の医師は追納側に振れやすい。
- 講演料・原稿料など「報酬」は10.21%の源泉徴収で、精算は雑所得として行う。給与バイトと混在しやすいため区分を確認する。
- 確定申告の義務は2か所給与+他所得の合計が20万円超から発生する。住民税は金額を問わず申告が必要だ。
自分の年収とバイト額で実際にどちらになるかは、計算しないと分からない。手取りシミュレーターに条件を入れれば、見込み額がすぐ出る。
節税の余地には上限がある。根本的に手取りを増やすのは、常勤の年収そのものを動かすことだ。
本記事は令和8年分(2026年)の税制・源泉徴収税額表に基づき、2026年7月時点の情報で作成しています。税制は年度ごとに改正される場合があるため、最新の情報は国税庁ホームページ等でご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。
著者:勤務医 Dr.マコト